経済産業大臣指定「伝統的工芸品」と「熊野筆」

「伝統的工芸品」という呼称は、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」で定められました。「的」とは、「工芸品の特長となっている原材料や技術・技法の主要な部分が今日まで継承されていて、さらに、その持ち味を維持しながらも、産業環境に適するように改良を加えたり、時代の需要に即した製品作りがされている工芸品」というほどの意味です。「伝統的工芸品」には、法律上では次の要件が必要と規定されています。

1.主として日常生活で使われるもの
冠婚葬祭や節句などのように、一生あるいは年に数回の行事でも、生活に密着し一般家庭で使われる場合は、「日常生活」に含みます。
工芸品は「用の美」ともいわれ、長い間多くの人の目や手に触れることで、使いやすさや完成度が向上します。また色・紋様・形は、日本の生活慣習や文化的な背景とも深く関わっています。

2.製造過程の主要部分が手作り
すべて手作りでなくても差し支えありません。が、製品の品質、形態、デザインなど、製品の特長や持ち味を継承する工程は「手作り」が条件です。持ち味が損なわれないような補助的工程には、機械を導入することが可能です。
製品一つ一つが人の手に触れる工程を経るので、人間工学的にも妥当な寸法や形状となりますし、安全性も備えています。

3.伝統的技術または技法によって製造
伝統的とはおよそ100年間以上の継続を意味します。工芸品の技術、技法は、100年間以上、多くの作り手の試行錯誤や改良を経て初めて確立すると考えられています。技術と技法は一体不可分なものですが、どちらかといえば技術は、「技術を磨く」といわれるように「一人一人の作り手の技量」「精度」に関わりが強く、技法は「原材料の選択から製法に至るノウハウの歴史的な積み重ね」に関わるものといえます。
伝統的技術、技法は、昔からの方法そのままでなく、根本的な変化や製品の特長を変えることがなければ、改善や発展は差し支えありません。

4.伝統的に使用されてきた原材料
3.と同様に、100年間以上の継続を意味し、長い間吟味された、人と自然にやさしい材料が使われます。なお、既に枯渇したものや入手が極めて困難な原材料もあり、その場合は、持ち味を変えない範囲で同種の原材料に転換することは、伝統的であるとされます。

5.一定の地域で産地を形成
一定の地域で、ある程度の規模の製造者があり、地域産業として成立していることが必要です。ある程度の規模とは、10企業以上または30人以上が想定されています。個々の企業だけでなく、産地全体の自信と責任に裏付けられた信頼性があります。

平成30年11月現在、経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」は全国に232品目あります。
(伝統的工芸品産業振興協会のHPより)

経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」の「熊野筆」は、昭和50年(1975年)に、毛筆業界としては全国で初めて、通商産業大臣(現在の経済産業大臣)により「伝統的工芸品」の指定を受けました。
下記の規定により製造された筆とされています。
1.伝統的工芸品の名称
  「熊野筆」
2.伝統的な技術又は技法
  ①火のし・毛もみにはもみがらの灰を用いること。
  ②寸切りには「寸木」及びはさみを用いること。
  ③混毛は、「練りまぜ」によること。
  ④糸締めには、麻糸を使用すること。
3.伝統的に使用されてきた原材料
  ①穂首は、ヤギ、ウマ、シカ、タヌキ、イタチ若しくはネコの毛又はこれらと同等の材質を有する獣毛とすること。
  ②軸の素材は、竹又は木とすること。
4.製造される地域
  広島県安芸郡熊野町
(熊野筆事業協同組合のHPから抜粋)

という定義ですので、熊野筆の中でも経済産業大臣指定「伝統的工芸品」と呼べるのは、100年間以上の生産の歴史のある書道筆と一部の日本画筆のみで、化粧筆や画筆は該当しません。(「伝統的工芸品」ではない「熊野筆」も存在しますので、それは「熊野筆ってなぁに?」のコラムをご覧ください。)
また、書道筆であっても人工毛が一部でも使われている筆も該当しません。

「伝統的工芸品」って厳しい基準をクリアした製品だけの称号なんです。
「伝統的工芸品」の「熊野筆」には伝統証紙が貼られており、承認番号が付与されています。